いきなりですが、皆さんの職場では「ハラスメント行為」はありますか?
「ある」と堂々と答えることができないのも、このハラスメント問題の一つですね。
会社及び職場におけるハラスメントの問題は年々増加傾向にあります。
昔からありましたが「我慢することが美徳」とされてきた日本の風習により、あからさまな問題にならずに今まで過ぎてきただけです。
ハラスメントを放置すれば、社員や職員の離職のリスクが高まるので、会社にとって大きな課題の一つと言えます。
今回は「職場のセクシャルハラスメント(セクハラ)の防止策と今後の動向」について解説します。
ハラスメントとは?
いろいろな場面での「嫌がらせ」及び「いじめ」のことです。
その種類は多岐に渡りますが、他者に対する発言・行動等が本人の意図とは関係なく
・相手を不快にさせる
・尊厳を傷つる
・不利益を与える
・脅威を与える
以上の行為に及ぶ事を言います。
ハラスメントの種類
「嫌がらせと感じることや嫌な感情」を表現する用語が「ハラスメント」の「ハラ」を用いて多数の用語が生まれています。
代表的なものを列挙し、簡単な説明を添えています。
この種類を一度見ておくことで類似のハラスメントに気づくことができるので、初期対応が非常に取りやすくなります。
パワハラ(パワーハラスメント)
職務上の地位や人間関係においての優位性により、業務範囲を超え、精神的・身体的苦痛を与える行為
セクハラ(セクシャルハラスメント)
職場内での性的言動が精神的・身体的苦痛を与える行為
マタハラ(マタニティハラスメント)
妊娠または出産後の女性社員に対して嫌がらせや精神的苦痛を与える行為
パタハラ(パタニティーハラスメント)
職場やその上司などが育児参加を希望する男性社員に対して嫌がらせや精神的苦痛を与える行為
オワハラ(就活終われハラスメント)
企業が新卒採用の内々定を出した学生に対して、就職活動を終えるよう働きかける行為
ジェンハラ(ジェンダーハラスメント)
「〇〇らしさ」や「〇〇だから」という先入観だけで差別的な言動や相手を非難する行為
モラハラ(モラルハラスメント)
モラルによる嫌がらせや精神的苦痛を与える行為
ケアハラ(ケアハラスメント)
職場やその上司などが家族の介護を行う社員に対して嫌がらせや精神的苦痛を与える行為
SOGIハラ(ソジハラスメント)
LGBTがセクシュアルマイノリティーの人たちを指しますが、すべての人が持つ性的指向を表現するのがSOGI(ソジ)です。
SOGIに対して嫌がらせや精神的苦痛を与える行為
アルハラ(アルコールハラスメント)
アルコール類の摂取の強要などを行う行為
スメハラ(スメルハラスメント)
においにより周囲を不快にさせる行為
カジハラ(家事ハラスメント)
家事を行う人に対する嫌がらせや精神的苦痛を与える行為
カラハラ(カラオケハラスメント)
歌いたいか否かに関係なく強制的に歌わせりなど嫌がらせをする行為
アカハラ(アカデミックハラスメント)
大学教授が生徒に対して「単位を与えない」などの嫌がらせをする行為
ドクハラ(ドクターハラスメント)
医師による患者への嫌がらせをする行為
管理職が理解しておくべき職場ハラスメントの重大性
職場でハラスメントが発生した場合に起こりうる事象を管理職は理解しておくことが需要です。大きく3つが想定されます。
・職場への悪影響
・ハラスメントに関する法的責任
・ハラスメントに関する労災認定
この3つの内容がどんなものかしっかりと把握しておくことがハラスメント対策の基礎になります。
それでは3つの詳細を順に記載し、解説します。
職場への悪影響
ハラスメントが発生した場合、職場に悪影響が発生します。
・加害者へのダメージ
・加害者の法的責任
・会社の法的責任
・職場環境の悪化
・作業効率の低下
・人的損失の発生
・企業イメージの悪化、低下
以上の項目により、組織力の低下にも繋がり結果として生産性が下がり企業活動にも影響することになります。
数人の人間関係の歪みが企業にとって気づかぬうちに脅威になりかねないのがハラスメントの問題です。
ハラスメントに関する法的責任
職場でハラスメントが起きた場合にどのような法的責任が発生するか、立場を変えて解説します。
加害者の法的責任
- 民事上、不法行為により会社からは懲戒処分、被害者からは損害賠償請求される可能性があります。
- 刑事上、警察や検察から「暴行、傷害、名誉毀損、脅迫、強要、わいせつ罪など」の罪に問われるリスクもあります。
- 社会から「非難・社会的制裁」を受けることになります。
被害者の法的責任
- 民事上、会社及び加害者に対して損害賠償請求できます。
会社(使用者)の法的責任
- 被害者から債務不履行責任や使用者責任を問われ、損害賠償請求される可能性があります。
- 加害者に対しては懲戒処分を履行できますが、行政措置の対象になることも忘れてはいけません。
- 加害者と同じく社会から「非難・社会的制裁」を受けることになり、イメージの低下に繋がります。
社会の対応
行政処分などがあれば、ハラスメントが横行している会社を知ることができ予め避けることができます。
リスク回避につながります。
「被害者」が最も守られるべき対象であり、被害者はもちろん会社も制裁を受けるます。
被害者一人が制裁されるだけでは済まない、イメージ低下により企業価値が下がることを組織全体で水平展開すべきです。
ハラスメントに関する労災認定
一例になりますが、下記のような認定がなされています。
- 2005年にセクハラに起因する認定
- 2008年に上司のいじめによる認定
- 2011年に心理的不可による認定
それ以降も職場でハラスメントが起きた場合に労災認定による労災支給の件数が年々増加しています。
それほど、ハラスメントの問題は増加しており企業にとって職場の安全上の管理の難しさも増していることを意味します。
セクハラの理解と防止に向けて
職場のハラスメントの代表格の一つである「セクハラ」について、法的動向からセクハラを起こさせないための対策を解説します。
これは管理職だけではなく全ての人が対象になりますので、ぜひ内容をしっかりとチェックしておくべきです。
セクハラはなぜなくならないのか?
ハラスメントと言えば、セクハラを一番に思い起こす人が多数でしょう。
それほどに多くの人が認知している言葉ですよね。
その内容も今更説明が不要なほど知られていると思います。
しかし、そこまで認知されているのになぜなくならないのか解説します。
・セクハラをしたらどうなるかということがわからない想像力の欠如
・セクハラをしたらダメだという気持ちを抑えられない自制心の欠如
一度セクハラを行うと、セクハラに対してハードルが下がってしまいエスカレートするケースが多く見られます。
・上司や同僚から受けるため、その後の職場環境のことを予見し「No」と言いにくい環境
・相談したら不利益な取り扱いを受けるかもしれないと考えてしまい、我慢してしまう
セクハラを受ける側は、訴えを起こした場合の「その後」を考えてしまいます。
セクハラを受けた人の「6割」ほどが「我慢した」と回答しています。
(2015年厚生労働省の調査結果より)
・個人間の問題だと思い、関わらない
・見て見ぬふり
周囲の人は、どうしても「自分は巻き込まれたくない」という気持ちが先行します。
いじめにも似た状況になりますので、セクハラの放置は重大な問題です。
セクハラを把握できた時点で、匿名でもいいので会社に相談すべきです。
セクハラの定義、判断基準
セクハラとは「性的に嫌な思いをさせる」程度に認識している人が多いと思います。
例えば「容姿に関することを意見する」などです。
ですが、それ以外でもセクハラに該当する場合がありますので、解説します。
セクハラの定義
『「職場」において行われる「相手」の意に反する性的な「言動」』です。
「職場」とは、社内はもちろん出張先、移動中、終業後も含みます。
「相手」とは、異性間、同性間における正社員はもちろん、派遣社員、契約社員、取引先も含みます。
「言動」とは、性的な発言、容姿・年齢・結婚・妊娠等の話題を嫌がる人への発言、執拗な誘い、性的な噂を流す、性的関係の要求、身体への不必要な接触等
セクハラの判断基準は?
判断基準としては「個別の状況を斟酌(しんしゃく)し、対象者の主観を重視しつつ「一定の客観性」(一般的な感じ方を基準)が必要としています。
しかし原則としては、相手が不快に感じた(性的に嫌な思いをするか)かどうかによります。
判断基準により「これくらいはセクハラじゃないだろう」と思い行為に及ぶことがないような職場環境が大切です。
受け取り側が不快であればそれはもうセクハラです。
セクハラの定義をしっかりと周知して、行為に繋がらないように徹底することが、良好な職場環境の形成に繋がります。
男女雇用機会均等法の改正について
男女雇用機会均等法により女性の職場環境は少しずつ改善しています。
2007年・2014年。2017年の法改正を以下にまとめました。
対象の拡大
男性→女性だけではなく、女性→男性、同性間、LGBT(性的マイノリティ)も対象になりました。
また、正社員に限らず、派遣社員やパートも対象になりました。
不利益な取り扱いの禁止
妊娠や出産等を理由にした不利益な取り扱いが禁止になりました。
しかし、セクハラの問題では中々進んでいないのが現状です。
そこで、会社もしくは職場では次のことに取り組む義務があります。
処分規定の明確化及び明文化をする
・周知と啓発
・相談窓口の設置
・被害者、加害者に対する適切な処置
・プライバシーの保護の徹底
この義務を遂行し達成できる会社及び職場だけが、「未来ある職場」と言えます。
皆さんの職場では「周知と告知」がどのように行われているかを知るだけで、所属する組織がどの程度セクハラについて認知しているかを図る指標になります。
セクハラ防止対策の実効性の向上における最近の動向は?
関連法令の改正が盛んに議論、可決されています。
直近では「男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法の改正」がありました。
では、具体的な取り組みはどうなのか解説します。
会社(使用者)、社員の責務の明確化
セクハラは当然行ってはいけないものであり、会社・社員の責務として、他の労働者に対する言動に注意を払うように努めるとしています。(その他のハラスメントも同様です)
不利益な取り扱いの禁止
セクハラを相談した社員へのその後の取り扱いについて、不利益があってはならないことが約束されます。
他社に関わる対応の明確化
自社の社員が他社の社員へのセクハラを行った場合は、他社の要請があれば協力に応じるように努めるとしています。
また自社の社員が他社の社員からセクハラを受けた場合も相談に応じるなどの措置を講ずるとしています。
調停の対象者の拡大
セクハラ等の調停制度について、関係当事者以外の社員についても出頭や意見徴収を行えるとしています。
以上、明確化された部分が多く、今後はこの基本的な指針により各社が独自のルールや窓口を設けることが求められます。
すでに対策を講じている会社はもちろん、これから具体的に動き出す会社もあると思います。
社会的責任を果たす意味でも、対策がしっかりしていることが企業価値を図る一つの指標になるでしょう。
セクハラを起こさないために
今回は「職場のセクシャルハラスメント(セクハラ)の防止策と今後の動向」について、ハラスメントの種類なども交えながら解説しました。
最後に、セクハラを起こさないために、「自ら注意すべきこと」と「管理職として気を付けること」をまとめます。
・酩酊時やストレスが溜まっている時は特に注意すること
・「ちょっとした冗談だった、そのつもりだった」「親しみを込めたつもり」はダメです。
・相手の嫌がることはすぐにやめる
・抗議されたらすぐに謝罪して言動を撤回、取り消す。繰り返さない
・必ずしも相手が「やめて」というとは限らない。
自らが加害者になることはないと言っても、相手が被害として感じてしまった時点でセクハラは成立します。
日頃から相手の立場、気持ちになって適切な距離感で接することが重要になってきます。
・ハラスメントは職場環境全体に悪影響を及ぼす重大な問題だと認識する。
・職場では「性的言動は不要」「セクハラは犯罪行為」という認識を社員全員に周知徹底する。
・職場でモラルの低い言動がする人がいたら、黙認せず注意と指導を徹底する。
・被害にあった社員からの相談は必ず最優先で聞いてあげる。相談内容は決して他言せずに秘密を守る。
管理職は、業務管理やマネジメントが主ですが、これからの職場環境では「対人関係」までしっかりと把握して適切な処置や対応を行うことで、良好な職場環境を育成、保持することも重要な責務になってきます。
個人間の問題だと断言せずにしっかり対処できる管理職がいる職場はきっと明るい、セクハラとは無縁の職場になりますね。